未成年(中学生・高校生)が加害者の場合のネット誹謗中傷開示請求と保護者の損害賠償責任
「相手は中学生らしいと聞いたが、開示請求はできるのか」「加害者が高校生で、親に責任を取らせたい」──ネット誹謗中傷の加害者が未成年であるケースは、被害者側にとっても弁護士にとっても判断が難しい領域です。少年法による刑事責任の特殊性、保護者の監督義務違反、学校の関与、示談交渉での配慮など、成人加害者の案件とはまったく異なる論点が絡みます。本コラムでは、未成年加害者案件の発信者情報開示請求から損害賠償請求までを、被害者目線で実務に即して整理します。
未成年加害者案件の特殊性
未成年が加害者の場合、案件の進め方には以下のような特殊性があります。被害者側がこれを理解していないと、せっかく開示請求しても十分な救済を得られないリスクがあります。
- 加害者本人に支払能力がないことが多い(学生・無職)
- 保護者の監督義務違反として親に損害賠償請求できる場合がある
- 刑事手続きは少年事件として家庭裁判所に送致される
- 14歳未満は刑事責任を問えない(触法少年として児童相談所等が対応)
- 学校の対応が示談・解決に大きく影響する
- 加害者の将来への配慮から示談で穏便にという展開になりやすい
開示請求の手続き自体は変わらない
意外に思われるかもしれませんが、発信者情報開示請求の手続きそのものは、加害者が成人か未成年かで変わりません。SNS運営会社・アクセスプロバイダ側にとって、契約者の年齢は開示の判断要素ではないからです。
- コンテンツプロバイダ(X・Instagram等)への開示命令申立て
- アクセスプロバイダ(NTT・KDDI等)への開示命令申立て
- 2022年改正の発信者情報開示命令で一括処理可能
ただし、契約者がプロバイダと契約を結ぶ親(保護者)名義である場合、開示されるのは「契約者である親」の氏名・住所であり、実際の発信者である未成年本人ではない、という点に注意が必要です。
開示後に「加害者は未成年だった」と判明した場合の対応
開示によって判明した契約者が親で、その世帯に未成年がいることが分かったら、実際の発信者を特定する追加調査が必要になります。
- 弁護士から世帯主(親)に対して任意での確認文書を送付
- 投稿時刻・投稿内容から、家族の誰が投稿したかを特定
- 親が認めない場合、端末ログ・アクセス履歴の調査を求める
- 場合によっては警察への被害届・告訴と並行して行う
成人案件と違って、親が事実を認めて子どもの行為と認めることで初めて損害賠償請求が現実化するケースが多いです。
少年法と民事責任の関係
未成年が刑事処分を受ける場合、少年法に基づく特別な手続きとなります。
- 20歳未満は少年法の対象(2022年改正で18・19歳は「特定少年」として一部成人扱い)
- 警察→児童相談所または家庭裁判所→少年審判の流れ
- 保護観察・少年院送致などの保護処分が中心
- 氏名・顔写真の報道は禁止(少年法61条)
ただし、民事上の損害賠償責任は別建てで発生します。「少年だから損害賠償もない」は誤解です。民事と刑事は独立しており、未成年でも金銭賠償の対象になります。
親(監督義務者)の責任
未成年が加害者の場合、保護者に対しても損害賠償請求できる可能性があります。根拠となるのは民法の以下の条文です。
民法714条(責任無能力者の監督義務者の責任)
加害者が責任無能力者(一般に12歳前後まで)の場合、監督義務者である親が直接損害賠償責任を負います。これは加害者本人の責任の代わりではなく、親自身の独立した責任です。
民法709条(親の固有の不法行為責任)
加害者が責任能力者(中学生〜高校生)であっても、親自身の監督義務違反が認められる場合は、民法709条の不法行為として親に直接請求できます。判例では以下のような場合に親の責任が認められています。
- 子どものスマートフォン利用について何の制限・指導もしていなかった
- 過去にも同種のトラブルがあったのに対策を怠った
- 子どもの問題行動を知りながら放置していた
- ネットリテラシー教育を一切行っていなかった
実務では「親の責任を全面的に問えるか」は争点になりますが、示談交渉では親が肩代わりして支払うケースが多数です。
学校が関与している場合
加害者が学生で、学校内のいじめが背景にある場合、学校にも一定の責任が発生する可能性があります。
- 学校がいじめを認知していたのに対応を怠った
- ネットでの誹謗中傷を学校のWi-Fi・端末を使って行った
- 教員がSNSいじめの存在を黙認していた
公立学校の場合は国家賠償法、私立学校の場合は民法上の不法行為・債務不履行が根拠になります。
また、被害者・加害者ともに同じ学校の生徒の場合、学校の協力的な仲介で示談が進みやすくなる一方、学校の隠蔽体質が問題化することもあります。文部科学省への通報(いじめ重大事態)が選択肢に入ることもあります。
示談交渉の特殊性
未成年加害者案件の示談には、成人案件とは異なる特徴があります。
示談相手は加害者本人ではなく親
未成年は法律行為を単独で行えないため、示談書は親(法定代理人)と締結します。本人の署名のみでは無効になるリスクがあります。
学校・教育委員会の介入
学校内の事案では、校長・教育委員会が同席するケースもあります。第三者の介入は和解促進になる反面、責任の所在を曖昧にする方向にも働きます。
加害者の将来への配慮
「進学への影響を避けたい」という親側の事情が交渉カードになります。被害者側は、これを利用して再発防止条項・SNS利用制限条項を入れることが可能です。
示談金の支払源
実質的に親が支払うため、親の経済力に応じた現実的な金額で合意する場面が多くなります。長期分割払いの提案も検討対象です。
慰謝料・損害賠償の相場
未成年加害者案件の慰謝料は、成人案件と同水準で算定されますが、実際の回収額は親の支払能力に左右されます。
- 軽度の侮辱・1回限りの投稿:10〜30万円
- いじめの一環としての継続的中傷:50〜200万円
- 個人情報晒し・性的画像拡散:100〜500万円
- 自殺関連事案・重大な精神被害:数百万〜1,000万円超
学校いじめの一環の場合、複数の加害者から一定割合ずつを受け取る形になります。
加害者が小学生・中学生(責任無能力者)の場合
12歳前後より下の年齢では、加害者本人に責任能力がないと判断されることがあります。この場合、
- 加害者本人には賠償責任なし(民法712条)
- 監督義務者である親が代わって責任を負う(民法714条)
- 示談・訴訟の相手方は親のみになる
責任能力の境界(だいたい11〜13歳)はケースバイケースで判断されます。重要なのは「加害者が小さいから無理」と諦めず、親への請求として組み立てることです。
被害者がとれる選択肢の整理
未成年加害者の案件で、被害者がとれる選択肢を整理します。
- 民事:親または本人に対する損害賠償請求
- 刑事:被害届・告訴(警察→児童相談所/家庭裁判所のルート)
- 学校対応:いじめ重大事態としての通報、教育委員会への申し入れ
- 行政相談:法務局人権擁護局・子どもの人権110番
- 学校外の専門機関:子どもの権利擁護機関、いじめ防止対策推進法に基づく組織
まとめ:未成年加害者でも諦めない
加害者が未成年であっても、発信者情報開示請求は通常通り行え、損害賠償も実現可能です。重要なのは、加害者本人の支払能力に頼らず、親の監督義務違反を法的根拠として組み立てる視点です。少年法による刑事手続きの特殊性はありますが、民事の損害賠償は独立して請求できます。学校が背景にある場合は、教育機関の対応も交渉材料になります。被害者側が「未成年だから仕方ない」と泣き寝入りする必要はまったくありません。ネット誹謗中傷とこども案件に強い弁護士に相談することで、親世代を巻き込んだ実質的な解決を目指せます。
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この記事の著者
開示請求Navi 編集部
発信者情報開示請求・ネット誹謗中傷対策に関する情報を、弁護士・司法書士・IT調査会社などの専門家と連携して発信しています。正確で実践的な情報をお届けすることを使命としています。