亡くなった家族(故人)への誹謗中傷と遺族による発信者情報開示請求・名誉回復措置の進め方
「亡くなった父の葬儀直後、SNSで故人を侮辱する投稿を見つけた」「自殺で亡くなった家族について、まとめサイトで根拠なき憶測や中傷が拡散している」「事件・事故で亡くなった子どもへの心ない投稿が止まらない」──故人への誹謗中傷は、遺族にとって深い喪失と二次被害を同時に強いる極めて辛い問題です。法的にも特殊な扱いを受ける領域で、適切な手続きを知らないと「もう亡くなった人だから対応できない」と諦めてしまいがちですが、実際には開示請求・損害賠償・刑事告訴とも実行可能です。本コラムでは、故人への誹謗中傷に対する遺族の法的対応を整理します。
故人への誹謗中傷の典型パターン
故人への誹謗中傷には、生前の被害とは異なる特殊なパターンが見られます。
- 葬儀・告別式の情報を悪用した侮辱投稿
- 自殺報道の後に発生する「自業自得」型の中傷
- 事件・事故の被害者に対する憶測・デマの拡散
- 故人の生前の写真・動画の悪意ある合成・転載
- 遺族の名前・住所まで巻き込んだ晒し行為
- 故人の過去のSNS投稿を掘り起こしての中傷
- 死因をネタにした嘲笑投稿
- 故人になりすました偽アカウントの作成
特に自殺・事件事故での死亡の場合、死後数日〜数週間がもっとも誹謗中傷が集中する時期です。
死者の名誉毀損は罪になるのか(刑法230条2項)
法律上、死者の名誉毀損も犯罪として処罰の対象になります。
刑法230条2項の規定
「死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない」
つまり、生前と違って「虚偽の事実摘示」がなければ刑事罰は成立しません。単なる悪口や侮辱では刑法上問えない一方で、事実無根の主張(嘘)で名誉を傷つけた場合は犯罪となります。
具体例
- 「あの人は実は不倫していた」(事実無根なら成立)
- 「死因は自殺ではなく他殺だ」(根拠なき主張なら成立)
- 「過去に犯罪歴があった」(虚偽なら成立)
- 「クズな人間だった」(事実摘示でなく侮辱なので成立しにくい)
遺族による民事訴訟の根拠
刑事とは別に、民事上の損害賠償請求も可能です。根拠は2つあります。
1. 故人の名誉権侵害の包括承継
故人が生前に持っていた名誉権・人格権を、遺族が承継して行使できるという理論です。判例上は限定的に認められる傾向にあります。
2. 遺族固有の慰謝料請求権(民法711条)
遺族自身が受けた精神的苦痛を根拠とする慰謝料請求です。こちらが実務的に主流で、判例も多く積み上がっています。
- 故人への中傷を見て遺族が受けた精神的苦痛
- 遺族の名誉感情の侵害
- 遺族の生活への実害(職場・近隣からの目)
- 葬儀・追悼の場での心情侵害
開示請求は遺族から行えるか
故人への中傷について、遺族が自分の名義で発信者情報開示請求を行うことは可能です。
開示請求できる主体
- 配偶者
- 直系血族(父母・子・孫)
- 兄弟姉妹
- 養親・養子
- 場合により事実婚の配偶者も
通常は故人と最も近しい関係の遺族が申立人となり、相続関係を示す戸籍謄本等で立証します。
開示請求の手続き
弁護士への依頼(遺族として)
戸籍謄本等で故人との関係を証明
発信者情報開示命令の申立て
プラットフォーム→アクセスプロバイダへの2段階開示
発信者特定
故人の生前ではなく遺族が現に被害を受けているという構成のため、特殊論点ではあるものの実務的には十分認められます。
削除依頼の進め方
各プラットフォームへの削除依頼は、遺族から直接行うことができます。
削除依頼で必要な書類
- 故人と申立人の続柄を証明する書類(戸籍・除籍謄本)
- 故人の死亡届の写し
- 該当投稿のURL・スクリーンショット
- 削除を求める具体的な理由(虚偽事実の指摘・遺族の名誉感情侵害等)
プラットフォーム別の対応
- X(旧Twitter):故人プロフィール削除専用申請あり
- Meta(Instagram・Facebook):故人アカウント削除フォーム
- Google:故人の個人情報削除フォーム
- LINEヤフー:遺族からの削除依頼に対応
- 5ch:個別記事削除依頼フォーム
多くのプラットフォームは、死亡が確認できれば削除に応じやすい傾向があります。
慰謝料の相場(遺族固有の慰謝料)
故人への誹謗中傷案件での慰謝料相場は、生前被害と若干異なる水準です。
過去の判例傾向
- 単発の侮辱投稿:30〜80万円
- 事実無根の事実摘示型:80〜200万円
- 自殺報道後の集中攻撃:100〜300万円
- 子どもへの中傷(遺族複数名):200〜500万円
- 事件事故被害者への組織的攻撃:300〜500万円超
遺族複数名で慰謝料を請求できるため、家族全体での総額は通常案件より大きくなる傾向があります。
親告罪としての告訴期限
死者の名誉毀損罪(刑法230条2項)は親告罪で、告訴期間は犯人を知ったときから6か月です。
告訴できる人
- 死者の親族(配偶者・直系血族・兄弟姉妹)
- 指定の遺族代表
告訴の流れ
- 警察・検察への被害届
- 告訴状の作成・提出
- 発信者特定後に告訴の意思表示
- 警察の捜査・送検
- 検察の起訴判断
ただし、死者の名誉毀損罪は実際の刑事訴追例が極めて少ないのが現実です。実務的には民事の損害賠償が中心になります。
死後のSNSアカウント管理
亡くなった本人のSNSアカウントが残ったまま、第三者の中傷の場になってしまうケースもあります。
主要SNSの故人アカウント対応
- Facebook:「追悼アカウント」化、または削除を遺族が選択可能
- Instagram:追悼アカウント化、コメント制限あり
- X(Twitter):削除申請が可能
- Google:「アカウント無効化管理ツール」で生前設定可能
- LINE:遺族からの削除申請を受付
故人のSNSが中傷投稿のターゲットになっている場合、追悼化または削除を早期に検討します。
自殺報道後の中傷への対応
自殺で亡くなった方への中傷は、社会的に極めて深刻な二次被害です。
WHO自殺報道ガイドライン
世界保健機関は、自殺報道に詳細な手段や場所の記載を避けるよう求めており、遺族の心情への配慮が国際的標準です。これに反する報道や投稿は、削除請求の根拠の一つになります。
対応のポイント
- 「自業自得」「身勝手」等の人格否定型投稿の削除依頼
- 「自殺ではなく他殺」などの事実無根の憶測への民事対応
- 遺族自身の心のケアを並行(電話相談・心療内科)
- マスコミ取材へのノーコメント対応の徹底
- 弁護士による全SNS横断モニタリングの依頼
公的支援
- いのちの電話:0570-783-556(自死遺族向け窓口あり)
- 自死遺族支援の会
- 自治体の犯罪被害者等支援窓口
報道された事件・事故被害者の場合
事件・事故で亡くなった方への中傷は、ニュース報道後72時間以内に集中します。
- 報道前から家族・関係者の心理的サポート体制を整える
- エゴサーチ・モニタリングを弁護士に依頼
- コメント欄が荒れる主要プラットフォーム(ヤフコメ・5ch・X)を優先監視
- 拡散される写真・動画の早期削除
- 必要ならプライバシー保護のため引越し等の物理的対策
まとめ:遺族の名誉を守る権利は法的に保障されている
故人への誹謗中傷は、生前と異なる特殊な法的構成が必要ですが、遺族による開示請求・損害賠償請求・刑事告訴のすべてが法的に可能です。死者の名誉毀損罪(刑法230条2項)は虚偽事実摘示が要件ですが、民事では遺族固有の慰謝料請求として広く認められています。プラットフォーム側も故人の遺族からの削除依頼には応じやすい傾向があり、戸籍謄本・死亡届の写しを用意したうえで早期に動けば、削除と発信者特定が現実的に進められます。喪失の悲しみのなかでの法的対応は心身ともに大きな負担ですが、遺族として故人の名誉を守る権利は法的に保障されています。被害を発見したら、ネット誹謗中傷案件と遺族支援に経験のある弁護士に早期相談することが、二次被害を最小化する最善策です。
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この記事の著者
開示請求Navi 編集部
発信者情報開示請求・ネット誹謗中傷対策に関する情報を、弁護士・司法書士・IT調査会社などの専門家と連携して発信しています。正確で実践的な情報をお届けすることを使命としています。